卵子提供という選択肢。7年間の不妊治療を終えた私がいま思うこと

判定日の待合室って、独特の空気が流れていますよね。
スマホを見ているようで誰も画面を見ていない、あの感じ。
私は7年間で11回、あの空気の中で自分の番号が呼ばれるのを待ちました。

はじめまして。
藤崎千夏と申します。
34歳から41歳まで不妊治療を続け、40歳のときに早発卵巣不全(POI)と診断されました。
いまは47歳。
不妊ピアサポート団体で相談員のボランティアをしながら、このブログを書いています。

相談の現場にいると、「卵子提供って実際どうなんですか」と聞かれる機会が年々増えてきました。
でも、当事者目線でまとまった日本語の情報は、いまだに驚くほど少ないままです。

この記事では、治療を終えた当事者として、卵子提供という選択肢の仕組み・日本の法律と現状・海外プログラムの実情・決める前に考えておきたいことを、公的な出典を確認しながら整理しました。
「あのとき私が読みたかった記事」のつもりで書いています。
いま治療の出口で立ち止まっている方に届けば嬉しいです。

私の7年間と、早発卵巣不全という診断

体外受精11回の末に告げられたこと

私の治療歴は、たぶん典型的なコースです。
34歳でタイミング法から始めて、人工授精を経て、37歳で体外受精にステップアップしました。

転機は40歳の秋でした。
生理が半年近く止まり、血液検査の結果を見た主治医から「早発卵巣不全の状態です」と告げられたんです。

早発卵巣不全(POI)は、40歳未満で卵巣の働きが止まってしまう疾患です。
日本産婦人科医会の研修ノートによると、診断の目安は「40歳未満で半年以上続く無月経」「FSH(卵胞刺激ホルモン)の高値」「エストロゲンの低値」の3つ。
発症率は40歳未満の女性の約1%とされています。

100人に1人。
決して珍しい病気ではないのに、私は診断されるまでこの病名を知りませんでした。

しかも日本内分泌学会の解説ページには、はっきりこう書かれています。
早発卵巣不全の多くは原因不明である、と。
「なぜ私が」の答えは、医学的にもまだ用意されていないんです。

「唯一エビデンスのある治療」という一文

診断後、私は手当たり次第に文献を読みました。
その中で、いまでも忘れられない一文があります。

日本内分泌学会の「早発卵巣不全」の解説には、妊娠を希望する場合について、排卵誘発などの治療は「有効性を示すエビデンスには乏しい」とあり、そのうえで唯一エビデンスのある治療として卵子提供が挙げられています。
ただし日本では一般的ではない、という但し書き付きで。
詳しくは日本内分泌学会の解説ページをご覧ください。

学会が「唯一エビデンスがある」と認める治療なのに、国内では一般的でない。
この奇妙なねじれが、卵子提供を考え始めた人が最初にぶつかる壁です。

私自身、この一文を読んだ夜は眠れませんでした。
自分の卵子での妊娠に医学的な見込みがないと突きつけられた絶望と、それでも道が残されているという希望が、同時に来るからです。

卵子提供とはどんな治療か

仕組みをざっくり整理

卵子提供は、第三者の女性(ドナー)から提供された卵子と夫の精子で体外受精を行い、できた胚を妻の子宮に移植して妊娠・出産を目指す治療です。

ポイントは、妊娠の成立に大きく影響するのが「産む人の年齢」より「卵子の年齢」だという点です。
子宮は年齢を重ねても妊娠を維持する力を保ちやすいため、若いドナーの卵子を使うことで、自己卵子では難しかった年代でも妊娠の可能性が出てきます。
早発卵巣不全や高齢による卵巣機能低下の人にとって、卵子提供が選択肢になるのはこの原理があるからです。

なお、具体的な妊娠率はクリニックやドナーの条件によって幅があります。
ネット上には威勢のいい数字も飛び交っていますが、出どころの怪しいものが多いので、検討する際は必ず医療機関やエージェントに直接、根拠付きで確認してください。

産んだ人が法律上の母になる。ここは法律で決まっている

相談の現場でよく聞かれるのが「卵子提供で産んだら、法律上の母親は誰になるんですか」という質問です。

ここは明確な答えがあります。
2020年に成立した生殖補助医療法(民法特例法)の第9条で、第三者の卵子を用いて出産した場合、その子を産んだ女性が法律上の母と定められました。
条文の内容は法務省の解説ページで確認できます。

一方で、卵子提供の実施手続きそのものを定めた法律は、まだありません。
2025年には特定生殖補助医療法案が国会に提出されましたが、出自を知る権利の扱いなどをめぐって議論が続き、2026年7月現在も成立に至っていません。

つまり日本の現状はこうです。

  • 産んだ人が母になる、という親子関係のルールは法律で確定している
  • 卵子提供を「誰が・どこで・どう行うか」のルールは法律が存在しない
  • 違法ではないが、国の制度として整備されてもいない

このグレーな状態が、次にお話しする「国内では受けにくい」現実につながっています。

日本国内の現状と、海外という選択肢

国内で受けられるのは、ごく限られたケース

日本国内での卵子提供は、JISART(日本生殖補助医療標準化機関)の倫理委員会に承認された場合などに限って実施されており、匿名ドナーからの提供は行われていません。
日本産婦人科医会の資料によると、2023年1月までに国内で卵子提供を受けて出産した夫婦は約70組です。

JISARTの発表では、2025年3月時点で非配偶者間体外受精の承認は累計166件、生まれた子どもは114人。
制度が始まってからおよそ20年での数字です。

年間数千人が保険適用の体外受精を受けている国で、卵子提供はこの件数。
無償提供が原則でドナーを自分たちで見つける必要があるなど条件も厳しく、「国内で」と考えても現実には道が非常に狭いのが実情です。

JISART自身が経緯の説明の中で、制度整備が進まなかった結果「患者は海外での高額治療を余儀なくされていた」と書いているほどです。

海外プログラムとエージェントという道

そのため、実際に卵子提供を選ぶ人の多くは海外の医療機関で治療を受けています。
渡航先としては台湾やアメリカなどが知られていて、国によってドナー制度も費用もかなり違います。

個人で海外のクリニックと直接やり取りするのはハードルが高いので、一般的には日本のエージェント(仲介会社)を通してプログラムに参加します。
ドナーの紹介、現地クリニックとの調整、渡航スケジュール管理、通訳などをまとめて引き受けてくれる存在です。

一例を挙げると、東京と大阪にオフィスを置く株式会社MONDOMEDICALは、卵子提供プログラムを250万円からと案内しています。
問い合わせからカウンセリング、契約、ドナー情報の開示、渡航・採卵、妊娠判定、出産までの流れが10ステップで示されていて、ドナーは21〜35歳の健康な女性、顔写真や経歴、遺伝的疾患の情報まで開示される仕組みです。

私がこの会社のサイトを読んで印象に残ったのは、いいことばかり書いていない点でした。
FAQで「ドナーの都合により採卵まで数か月かかる場合がある」という時間的なリスクや、日本には卵子提供のルールを定めた法律がないという現状を、そのまま説明しています。
カウンセリングは無料なので、話だけ聞いて判断材料にする使い方もできます。
プログラムの詳細やモンドメディカルの評判・サポート内容が気になる方は公式サイトを見てみてください。

国内と海外、それぞれの特徴を表にまとめるとこうなります。

国内(JISART承認例)海外プログラム(エージェント利用)
実施件数累計166件承認・114人誕生(2025年3月時点)統計なし(相当数と推定)
ドナー無償・非匿名。自分たちで探すケースが中心エージェント登録ドナーから選択
条件カウンセリング複数回、子への告知が前提など厳格エージェント・渡航先の制度による
費用比較的抑えられる250万円程度から。渡航先により大きく変動
期間承認まで長期間かかる場合があるドナーの都合により数か月単位で変動

どちらが正解ということではなく、何を優先するかで選択が変わる構図です。

決める前に考えておきたいこと

子どもにどう伝えるか

卵子提供を考えるとき、費用や妊娠率より先に向き合ってほしいのが、生まれてくる子どもへの告知の問題です。

生まれた子どもには、自分のルーツを知りたいと望む気持ちが生まれることがあります。
いわゆる「出自を知る権利」です。
JISARTの倫理委員会は2025年6月の提言で、幼少期からの告知を進めること、15歳以上になった子どもへの提供者情報の開示を求めています。
日本弁護士連合会も、法案審議に際して出自を知る権利の保障が不十分だと指摘する会長声明を出しました。

「伝えるかどうか」は夫婦だけの問題ではなく、生まれてくる子の人生の問題でもある。
ここは時間をかけて話し合ってほしいところです。

お金は総額で考える

プログラム費用として提示される金額が、支払いの全部とは限りません。
渡航費や滞在費、現地での追加検査、薬剤費などが別枠になっていることがあります。

契約前に確認したいのは次の点です。

  • 提示額に何が含まれ、何が含まれないのか
  • 採卵がうまくいかなかった場合の追加費用や返金規定
  • 複数回の渡航が必要になった場合の費用
  • 為替変動の影響を受ける項目があるか

書面で内訳をもらって、夫婦で数字を見ながら検討してください。
即決を迫るような業者なら、その時点で候補から外していいと思います。

うまくいかない可能性も、最初から織り込む

言いにくいことですが、卵子提供でも1回で妊娠するとは限りません。
ドナーとのマッチングや渡航の調整で、開始から妊娠判定まで年単位の時間がかかることもあります。

治療を続けてきた人ほど「これが最後の手段だから」と自分を追い込みがちです。
だからこそ、始める前に「どこまでやるか」「うまくいかなかったらどうするか」を夫婦で決めておいてほしいんです。
私は体外受精の終盤でこれを決めていなかったせいで、やめどきを見失って苦しみました。

治療を「やめた」私がいま思うこと

正直に書くと、私は卵子提供を選びませんでした。

診断から1年、資料を取り寄せて、説明も聞いて、夫と何十回も話しました。
最後は「私たちは、私の卵子にこだわっていたのではなく、二人の生活を大事にしたかったんだ」という結論に落ち着いた。
それだけの話です。

でも、相談員として出会ってきた中には、卵子提供で母になった人もいます。
その人の顔を思い浮かべながら断言できるのは、選んだ人も選ばなかった人も、どちらも間違っていないということです。

卵子提供は、不妊治療の「敗者復活戦」ではありません。
数ある選択肢の一つで、選ばない自由も同じ重さで存在します。

もし一人で抱え込んでいるなら、各都道府県に設置されている不妊専門相談センターという公的な窓口もあります。
厚生労働省の不妊治療に関する取組のページに案内があるので、費用をかけずに専門家へ相談したいときはここから探してみてください。

まとめ

最後に、この記事の要点を置いておきます。

  • 早発卵巣不全は40歳未満の女性の約1%に起こり、多くは原因不明
  • 学会が唯一エビデンスのある治療とする卵子提供は、日本国内では実施の道が非常に狭い
  • 産んだ女性が法律上の母になることは法律で確定している一方、提供手続きを定める法律は2026年7月現在も未成立
  • 実際に選ぶ人の多くは海外プログラムを利用し、エージェント経由が一般的
  • 決める前に、子どもへの告知・総額費用・やめどきの3点を夫婦で話し合っておく

7年間の治療を終えて6年経ったいま思うのは、情報が少ない中で決断を迫られることが、この治療の一番つらい部分だったということです。
この記事が、あなたの決断を急かすのではなく、落ち着いて考えるための材料になりますように。

あなたがどの道を選んでも、その選択を応援しています。