「冬の新潟って、やっぱり大変なんでしょ?」。
地方移住を考えている友人から、決まって聞かれる言葉です。
その気持ち、痛いほどよく分かります。
なぜなら10年前、東京の広告会社を辞めて新潟に移住を決めた僕自身が、同じ不安でいっぱいだったからです。
はじめまして、山本悠真と申します。
新潟県長岡市に移住して10年、地域おこし協力隊を経て、今はフリーライターとして地域の魅力を発信しています。
雪国の暮らしは、確かに甘くはありません。
でも、この10年間の実体験を通して見えてきたのは、都会にいた頃には想像もできなかった「豊かさ」でした。
この記事は、かつての僕と同じように「冬」という壁の前で一歩を踏み出せずにいるあなたのために書きました。
僕が本音で語る「雪国のリアル」が、あなたの背中をそっと押すきっかけになれば嬉しいです。
まずは僕の話をさせてください:10年前に抱いていた「冬の新潟」への不安
「雪国は無理かも…」東京の僕が恐れていた3つのこと
今でこそ雪国の暮らしにも慣れましたが、10年前の僕は、冬の新潟に対して漠然とした、しかし強烈な恐怖心を抱いていました。
特に怖かったのは、この3つです。
- 終わりの見えない雪かき地獄
- 雪道での運転という未知の恐怖
- 家に閉じこもる孤独な毎日
テレビのニュースで見る、屋根まで届くような豪雪の映像。
「あんな世界で、自分に生活ができるわけがない」。
そう本気で思っていました。
通勤はどうするのか、買い物はどうするのか、そもそも精神的に耐えられるのか…。
考えれば考えるほど、不安は雪だるま式に膨らんでいきました。
移住の決め手は、冬の厳しさの先に見えた人の温かさ
そんな僕が移住を決意できたのは、ある冬の日に体験した「人の温かさ」がきっかけでした。
移住先候補だった長岡市を、あえて真冬に訪れたときのことです。
慣れない雪道で車がスリップし、側溝にはまりかけてしまいました。
パニックになっている僕に「大丈夫かい!」と声をかけ、黙々と雪かきを手伝ってくれたのは、通りがかりの見ず知らずの地元の方々でした。
「冬は助け合いだからな」。
そう言って笑うおじいさんの顔を見たとき、僕の中で何かが変わりました。
冬の厳しさは、人と人との繋がりを強くするのかもしれない。
そう感じたのです。
地域おこし協力隊として学んだ「雪との付き合い方」
移住後、地域おこし協力隊として活動する中で、僕は「雪と戦う」のではなく「雪と上手に付き合う」という感覚を学びました。
それは、除雪機の使い方といった技術的なことだけではありません。
例えば、大雪が降った朝は「今日はもう仕方ない」と良い意味で諦めて、近所の人とお茶を飲みながら雪が弱まるのを待つ余裕。
あるいは、かまくらを作ったり、雪景色を見ながら熱燗を飲んだり、冬ならではの楽しみを見つける視点。
雪は、ただ厄介なだけのものではない。
暮らしにリズムと彩りを与えてくれる、自然の恵みでもある。
そう思えるようになったとき、僕はようやく本当の意味で雪国の一員になれた気がしました。
【本音Q&A】移住希望者の「冬の不安」に正直に答えます
さて、ここからは僕の体験談も交えながら、皆さんからよく聞かれる冬の不安について、Q&A形式で正直にお答えしていきます。
Q1. 雪かき・除雪って、毎日どれくらい大変?
これは最も多い質問ですね。
結論から言うと「降る日もあれば、降らない日もある。でも、降る時は結構大変」というのが正直な答えです。
僕の住む長岡市では、一晩で30cm以上積もることも珍しくありません。
そんな日は、朝5時半に起きて、出勤前に1時間ほど雪かきをするのが日課になります。
もちろん、帰宅後にもう一仕事、なんて日もあります。
ただ、誤解しないでほしいのは、一人で全てを背負うわけではないということです。
幹線道路や生活道路は、市が除雪車で綺麗にしてくれますし、何より「ご近所さんとの助け合い」があります。
「お宅の旦那さん、出張なんでしょ?やっとくよ!」なんて声がかかることも日常茶飯事です。
この連帯感が、雪国の暮らしを支えているのだと日々感じています。
Q2. 車の運転は?冬用タイヤだけで本当に大丈夫?
これも本当に不安ですよね。
僕も最初は怖くて、時速20kmくらいでノロノロ運転していました。
まず大前提として、スタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)への交換は必須です。
これさえ履いていれば、圧雪された道路なら、よほどのことがない限り普通に走れます。
ただし、絶対に過信してはいけません。
雪道運転で最も大切なのは、以下の3つです。
- 「急」のつく操作はしない(急発進・急ブレーキ・急ハンドル)
- 車間距離をいつもの2倍以上とる
- ブラックアイスバーン(凍結路)を警戒する
特に怖いのが、一見濡れているだけに見えるブラックアイスバーンです。
橋の上やトンネルの出入り口は特に凍結しやすいので、冬場は「かもしれない運転」を徹底することが、自分と周りの人を守ることに繋がります。
Q3. 光熱費はやっぱり高い?冬の生活コストのリアル
「冬は暖房費がかさむ」というイメージ、ありますよね。
これは、ある意味で事実です。
僕の場合、冬(12月〜3月)の灯油代や電気代は、夏場の1.5倍〜2倍近くになります。
特に古い木造住宅だと、断熱性能によってはさらに高くなる可能性もあります。
しかし、ここで考えてほしいのが「暮らし全体のコスト」です。
新潟は都市部に比べて家賃が安く、新鮮な食材も手頃な価格で手に入ります。
僕自身の感覚では、冬の光熱費が上がった分を差し引いても、年間の生活コストは東京時代より明らかに下がりました。
一部分だけを切り取るのではなく、トータルで考える視点が大切だと思います。
Q4. 外に出られないって本当?冬の日の過ごし方と楽しみ
「冬は家に閉じこもりきりで、気が滅入りそう…」。
そんなことはありません!むしろ、冬だからこその楽しみがたくさんあります。
確かに吹雪の日は家で過ごすことが多いですが、それもまた一興です。
薪ストーブの前で読書をしたり、地元の野菜で煮込み料理を作ったり、静かな時間の中で自分と向き合うことができます。
そして、晴れた日には外に飛び出します。
スキーやスノーボードはもちろん、近所の公園で子どもと雪だるまを作ったり、長靴で新雪の上を歩くだけでも最高に気持ちが良いものです。
「長岡雪しか祭り」のような冬のイベントも各地で開催され、地域全体で冬を楽しもうという活気に満ちています。
大変だけじゃない!10年住んでわかった「雪国暮らしの醍醐味」
雪かきは大変だし、運転も気を使います。
でも、もし僕が「もう一度移住先を選べるとしても、新潟を選ぶか?」と聞かれたら、迷わず「はい」と答えます。
それは、大変さを補って余りあるほどの「醍醐味」が、ここにはあるからです。
静寂な銀世界が教えてくれる、暮らしの豊かさ
雪が降り積もった朝の、あの静けさが僕は大好きです。
雪は音を吸収する性質があるため、世界から一切の雑音が消え、しんとした静寂に包まれます。
その中で温かいコーヒーを飲みながら、ゆっくりと流れる時間を味わう。
都会の喧騒の中では決して得られなかった、贅沢な時間です。
冬だからこそ美味しい!新潟の食と地酒の魅力
厳しい冬は、新潟の食を一層美味しくしてくれます。
雪の下で甘みを蓄えた「雪下野菜」の濃厚な味わい。
厳しい寒さの中で仕込まれる「寒造り」の日本酒の、キリリと澄んだ味。
熱々の鍋をつつきながら、地元の銘酒で一杯やる。
これ以上の幸せがあるでしょうか。
冬の味覚を知ってしまうと、もうこの土地からは離れられません。
僕が紹介したのは日常の中にある楽しみですが、移住の前に、まずは特別な旅でこの土地の魅力を感じたい方もいるかもしれませんね。
新潟で生まれ育った方が発信する情報の中には、僕も知らないような新潟のハイエンドな観光体験が紹介されており、移住者としても非常に参考になりますよ。
「助け合い」から生まれる、地域との深いつながり
先ほども少し触れましたが、雪は人と人との繋がりを強くしてくれます。
「屋根の雪、そろそろ危ないぞ」と声をかけてくれる隣人。
除雪機が壊れた時に、嫌な顔一つせず貸してくれる農家さん。
一人では乗り越えられない困難があるからこそ、自然と「助け合い」の輪が生まれます。
この温かい人間関係こそが、僕が雪国暮らしで得た最大の財産だと思っています。
これから新潟を目指すあなたへ:冬を乗り越えるための3つのヒント
ここまで読んで、少しだけ雪国への興味が湧いてきたかもしれません。
最後に、これから新潟を目指すあなたへ、僕からのささやかなアドバイスを3つ贈ります。
①まずは「お試し移住」で冬を体験してみよう
百聞は一見に如かず。
いきなり移住するのはハードルが高いと感じるなら、まずは「お試し移住」制度を利用して、1週間でもいいので冬の暮らしを体験してみてください。
長岡市をはじめ、新潟県内の多くの市町村で移住体験施設が用意されています。
リアルな寒さや雪かきの感覚を肌で感じることで、自分に合うかどうかを判断できるはずです。
②頼れる人を見つける!地域コミュニティに飛び込む勇気
移住して一番心強いのは、いざという時に頼れる人の存在です。
地域のイベントや集まりには、積極的に顔を出してみてください。
「東京から来たんです」と言えば、きっと誰もが温かく迎えてくれるはずです。
一人、また一人と顔見知りが増えていくことが、冬の不安を溶かす一番の薬になります。
③「完璧」を求めず、不便さを楽しむ心の余裕
雪国の暮らしは、思い通りにいかないことの連続です。
大雪で電車が止まることもあれば、雪かきで筋肉痛になる日もあります。
でも、そこでイライラするのではなく、「まあ、そんな日もあるか」と笑って受け流す心の余裕が大切です。
不便さの中にこそ、暮らしの面白さや人間らしさが隠れている。
そう思えたら、もう立派な雪国マスターです。
まとめ
さて、長々とお話ししてしまいました。
「雪国の暮らしは、大変か?」
10年暮らした今の僕の答えは、こうです。
「大変です。でも、それ以上に最高に豊かです」。
雪かきの苦労も、凍える朝の寒さも、すべては静寂な銀世界や、温かい人との繋がり、そして冬の美味しい恵みを味わうためのスパイスのようなもの。
不安という分厚い雪の壁の向こう側には、都会では決して得られない、温かくて豊かな暮らしが待っています。
この記事が、あなたの心の中にある雪を少しでも溶かし、新しい一歩を踏み出すきっかけになることを、心から願っています。