「私が住んでいるマンションは、1981年以降に建てられた『新耐震基準』だから地震が来ても安心だ」
多くの方がそう信じているのではないでしょうか。
確かに、新耐震基準は過去の大地震の教訓を基に、建物の安全性を飛躍的に向上させました。
しかし、その「安心」は絶対的なものではないかもしれません。
2016年に発生した熊本地震では、震度7の揺れが2度も観測され、新耐震基準で建てられたマンションにも被害が及びました。 この事実は、「新耐震基準=無被害」ではないという厳しい現実を私たちに突きつけています。
この記事では、なぜ新耐震基準のマンションでも注意が必要なのか、そして特に耐震診断を検討すべきマンションの具体的な特徴を3つに絞って、専門家の視点から徹底的に解説します。
ご自身の、そしてご家族の大切な命と資産を守るために、ぜひ最後までお読みいただき、マンションの安全性を見直すきっかけにしてください。
まずはおさらい!「新耐震基準」と「旧耐震基準」の決定的違い
耐震診断の必要性を理解する上で、まずは「新耐震基準」がどのようなものなのかを正確に知ることが重要です。
旧耐震基準との違いを比較しながら、そのポイントを見ていきましょう。
1981年6月1日が運命の分かれ道
建物の耐震基準は、1981年(昭和56年)6月1日を境に大きく2つに分けられます。
- 旧耐震基準: 1981年5月31日までの建築確認申請で適用された基準
- 新耐震基準: 1981年6月1日以降の建築確認申請で適用される基準
ここで注意したいのが、「完成日(竣工日)」ではなく「建築確認日」が基準であるという点です。 例えば、1982年に完成したマンションでも、建築確認の申請が1981年5月以前であれば、旧耐震基準で建てられている可能性があります。
想定する地震のレベルが全く違う
旧耐震基準と新耐震基準の最も大きな違いは、想定している地震の規模です。
その違いは、以下の表を見ると一目瞭然です。
| 基準 | 想定する地震の規模 | 求められる性能 |
|---|---|---|
| 旧耐震基準 | 震度5強程度の地震 | 建物が倒壊・崩壊しないこと。 |
| 新耐震基準 | 中地震(震度5強程度) | ほとんど損傷しないこと。 |
| 大地震(震度6強~7程度) | 人命に危害を及ぼすような倒壊・崩壊をしないこと。 |
旧耐震基準が震度5強程度の揺れまでしか想定していなかったのに対し、新耐震基準では震度6強から7という、阪神・淡路大震災クラスの大地震でも「倒壊は免れる」ことが求められています。 この基準の強化により、建物の安全性は格段に向上しました。
なぜ?新耐震基準でも100%安心できない3つの理由
これほど厳しくなった新耐震基準ですが、それでも万全とは言えない理由が3つあります。
この点を理解することが、ご自身のマンションのリスクを正しく評価する第一歩となります。
理由1:基準の目的は「人命の保護」であり「無被害」ではない
新耐震基準の最大の目的は、あくまで「大地震時に建物が倒壊・崩壊せず、人命を守ること」にあります。 これは「建物が全く被害を受けない(無被害)」ことを保証するものではありません。
震度6強~7の揺れに見舞われれば、建物が倒壊はしなくても、壁に大きな亀裂が入ったり、配管が破損したりして、大規模な修繕が必要になる可能性があります。 最悪の場合、継続して住むことが困難になるケースも想定されます。
理由2:2000年基準や長周期地震動など、新たな知見の登場
建築基準法は、大地震の教訓を得て、その後も改正が重ねられています。
- 2000年基準: 1995年の阪神・淡路大震災の教訓から、特に木造住宅を対象に地盤調査の義務化や耐力壁のバランスの良い配置などが盛り込まれました。 マンションに直接適用されるものではありませんが、耐震性に対する考え方がより進化していることを示しています。
- 長周期地震動への懸念: 東日本大震災以降、特に注目されるようになったのが「長周期地震動」です。 これは、ゆっくりと大きな揺れが長く続く現象で、特に高層マンション(タワーマンション)の上層階を大きく揺らす特性があります。 新耐震基準が制定された当初は、この長周期地震動に対する詳細な規定はありませんでした。現在では対策が進んでいますが、古い高層マンションでは注意が必要です。
理由3:建物の「形状」や「立地」までは考慮されていない
耐震基準は、あくまで建物の構造計算上の強度を定めたものです。
しかし、実際の地震被害は、建物の「形」や、その建物が建っている「土地」の状況に大きく左右されます。
次章で詳しく解説しますが、特殊な形状のマンションや、軟弱な地盤に建つマンションは、基準を満たしていても想定以上のダメージを受けるリスクを抱えています。
【要注意】耐震診断を検討すべきマンションの危険な特徴3選
ここからが本題です。
あなたのマンションが以下の3つの特徴に当てはまる場合、新耐震基準であっても一度、専門家による耐震診断を検討することをおすすめします。
特徴1:特定の形状を持つマンション(ピロティ・不整形・セットバック)
建物の形は、耐震性に大きな影響を与えます。
特に注意が必要なのは、以下の3つの形状です。
① 1階部分が駐車場や店舗の「ピロティ構造」
1階部分が柱だけで構成され、壁が少ない駐車場や店舗になっている構造を「ピロティ構造」と呼びます。 開放感があり土地の有効活用ができるため多くのマンションで採用されていますが、耐震性の観点からは弱点を抱えています。
地震の水平な揺れに対して、壁が少ない1階部分に力が集中し、柱が破壊されて層崩壊(1階部分だけが潰れる現象)を起こす危険性があるのです。 実際に、熊本地震では新耐震基準のピロティ構造マンションでも被害が報告されています。
セルフチェックポイント
- 自宅マンションの1階が駐車場や店舗になっていないか?
- 1階部分に太い柱はあるが、壁が極端に少なくないか?
② L字型やコの字型などの「不整形な形状」
上から見たときに、正方形や長方形ではなく、L字型やコの字型、T字型など複雑な形をしているマンションも注意が必要です。
このような不整形な建物は、地震の揺れが複雑に伝わりやすく、建物の接続部分(エキスパンションジョイント)などに力が集中して損傷を受けやすい傾向があります。
③ 階数が上がるにつれて段々になる「セットバック構造」
日照権などの関係で、上層階が下層階よりも後退して、階段状になっているマンションを「セットバック構造」と呼びます。
この形状も、建物全体のバランスが不均一になりがちで、地震の際に揺れが増幅されたり、特定の階層にダメージが集中したりする可能性があります。
特徴2:軟弱地盤や埋立地など「土地」にリスクがあるマンション
どんなに頑丈な建物を建てても、その下の地盤が弱ければ元も子もありません。 特に、以下のような土地に建つマンションは注意が必要です。
- 埋立地・造成地: 東京湾岸エリアなどに代表される埋立地は、もともと海や沼地だった場所です。地盤が比較的軟弱で、地震の揺れが増幅されやすい(揺れやすい)傾向があります。
- 川沿いや低地: かつて川や沼だった場所を埋め立てた土地も多く、軟弱地盤である可能性が高いエリアです。
- 液状化の可能性がある土地: 砂質地盤で地下水位が高い土地では、大きな地震の際に「液状化現象」が発生するリスクがあります。液状化が起こると、地盤が液体のようにドロドロになり、建物を支える力を失います。建物自体は壊れなくても、傾いたり沈下したりする被害につながります。
セルフチェックポイント
- 各自治体が公開している「ハザードマップ」や「液状化マップ」で、自宅周辺の地盤リスクを確認してみましょう。「J-SHIS Map」(防災科学技術研究所)などのWebサイトも参考になります。
特徴3:適切な維持管理や修繕が行われていないマンション
マンションの耐震性は、建てられた瞬間から経年劣化との戦いが始まります。
コンクリートのひび割れや鉄筋の錆びなどを放置していると、本来の耐震性能を維持することはできません。
適切な維持管理が行われているかどうかは、以下の点で確認できます。
- 長期修繕計画の有無と実施状況: 適切な周期で大規模修繕工事が計画され、実際に実施されているか。
- 外壁や共用部分の状態: 外壁に大きなひび割れやコンクリートの剥落がないか、共用廊下や階段の鉄部が錆びていないかなどを目視で確認する。
管理状態が悪いマンションは、耐震性だけでなく資産価値の面でも大きな問題を抱えている可能性があります。
自宅は大丈夫?マンションの耐震性を確認する3ステップ
ご自身のマンションについて不安を感じた方は、以下の3つのステップで現状を確認してみましょう。
ステップ1:「建築確認済証」で建築確認日を正確に把握する
まずは、お住まいのマンションが新耐震基準で建てられているかを正確に確認します。
重要なのは「竣工日」ではなく「建築確認日」です。 これは「建築確認済証」や「検査済証」といった書類で確認できます。これらの書類は、管理組合や管理会社が保管しているのが一般的です。
ステップ2:建物の形状とハザードマップをセルフチェック
次に、前章で解説した「危険な特徴」に当てはまらないか、ご自身の目で確認します。
- 建物の形状: 1階はピロティ構造ではないか?L字型など不整形な形ではないか?
- 立地: 自治体のハザードマップなどを活用し、地盤のリスク(揺れやすさ、液状化の可能性)を確認する。
ステップ3:管理組合に長期修繕計画や耐震診断の履歴を確認する
管理組合の理事会や総会の議事録、長期修繕計画などを確認させてもらいましょう。
過去に耐震診断を実施したことがあるか、その結果はどうだったのか、そして計画通りに修繕が実施されているかを確認することは、マンションの管理状態と耐震性への意識を測る重要な指標となります。
耐震診断の基礎知識|費用と流れ、補助金について
セルフチェックの結果、さらに詳しい調査が必要だと感じた場合は、専門家による「耐震診断」を検討します。
耐震診断の種類と基本的な流れ
耐震診断は、一般的に建物の状況に応じて段階的に行われます。
- 予備診断・1次診断: 設計図書を基に、建物の形状や壁・柱の量から簡易的に耐震性能を評価します。
- 2次診断・3次診断: 現地調査でコンクリートの強度を測定したり、鉄筋の状態を確認したりして、より詳細な構造計算を行い、精密な耐震性能を評価します。
耐震診断を実施するには、管理組合での合意形成(総会での決議)が必要です。
まずは管理組合に耐震診断の必要性を提案し、合意形成を図ることから始まります。
実際に診断を依頼する際は、マンションの耐震診断や補強設計に豊富な実績を持つ専門会社を選ぶことが重要です。
例えば、建築設計や施工管理を専門とする株式会社T.D.Sのような企業では、専門的な知見に基づいた診断が期待できます。
信頼できるパートナーを見つけるためにも、まずは株式会社T.D.Sの企業情報や評判を確認してみるのも一つの方法です。
気になる費用相場と自治体の補助金制度
耐震診断の費用は、マンションの規模や診断のレベルによって大きく異なりますが、数十万円から数百万円かかる場合もあります。
この費用負担を軽減するため、多くの自治体で耐震診断やその後の耐震改修工事に対する補助金・助成金制度が設けられています。
例えば、東京都や大阪市、神戸市などでは、旧耐震基準のマンションを中心に、耐震診断費用の一部または全額を補助する制度があります。 新耐震基準のマンションでも、特定の条件(ピロティ構造など)を満たす場合に補助対象となるケースもあります。
お住まいの自治体のウェブサイトを確認したり、建築指導課などの担当部署に問い合わせたりして、利用できる制度がないか必ず確認しましょう。
まとめ:安心な暮らしのために、まずは現状把握から始めよう
「新耐震基準」は、日本の建物の安全性を大きく向上させた画期的な基準です。
しかし、その基準も万能ではなく、建物の形状、立地、そしてその後の維持管理状態によって、リスクの度合いは大きく変わります。
「新耐震だから大丈夫」と盲信するのではなく、この記事で紹介した「ピロティなどの特定の形状」「軟弱地盤などの立地リスク」「維持管理の状態」という3つの特徴をご自身のマンションに当てはめてみてください。
そして、少しでも不安を感じたら、まずは管理組合で話し合い、専門家への相談や耐震診断を検討することが、あなたと家族の未来を守るための最も確実な一歩となるはずです。
安心できる住まいのために、まずは現状を正しく知ることから始めましょう。




