なぜあの馬に賭けたのか?元銀行員が語るロジックと感情の交差点

銀行員から競馬ライターへ。
異色のキャリアチェンジを果たした人物がいます。
私、石原拓実と申します。

かつてメガバンクで15年間、数字と向き合う日々を送っていました。
しかし、人生の折り返し地点で、私は新たな道を選びました。
それは、“競馬ライター”という道です。

転機は、2020年のコロナ禍。
リモートワークが中心となり、時間に少しゆとりが生まれた土曜日でした。
ふとYouTubeで観たG1レースの熱気に、私は心を奪われたのです。
画面越しに伝わる興奮、人馬一体となって勝利を目指す姿。
それは、銀行で扱っていた数字の達成感とは異なる、“勝負”そのものの美しさでした。

その熱は日増しに高まり、仕事の傍らで競馬ブログを始めました。
すると、SNSを通じて少しずつ反響をいただくようになり、2022年、ついに銀行を退職。
現在はWeb競馬メディアを中心に執筆活動を行いながら、自身の有料予想コミュニティも運営しています。

本記事では、私がどのようにレースを分析し、どの馬に、そして「なぜ」賭けるのか、その思考のプロセスをお伝えします。
元銀行員としての経験が、競馬予想という一見異なる世界でどのように活きているのか。
そして、ロジックだけでは語れない、感情の揺らぎとどう向き合っているのか。
「なぜ、あの馬だったのか?」という問いに、私なりの答えを提示できれば幸いです。

銀行員時代の思考法が育んだ「賭け」のロジック

銀行員時代に培った思考法は、現在の競馬予想の根幹を成しています。
一見、畑違いのように思えるかもしれませんが、実は多くの共通点があるのです。

数字と確率で考える:リスク管理の原則

銀行業務の基本は、リスク管理です。
融資一つとっても、貸し倒れのリスクを徹底的に分析し、リターンとのバランスを考慮します。
これは競馬も同様で、闇雲に高配当を狙うのではなく、的中率と回収率のバランス、つまり「リスクとリターン」を常に意識する必要があります。

私が重視するのは、過去の膨大なレースデータです。
自作のExcelデータベースには、過去10年分のレース結果、天候、馬場状態、各馬の適性などが網羅的に記録されています。
これらのデータを分析し、客観的な確率を導き出す。
「リスクを取るには根拠が要る」という考えは、銀行員時代に叩き込まれた鉄則であり、私の予想スタイルの核となっています。

例えば、あるレースで魅力的な穴馬がいたとします。
しかし、データ上、その馬が好走する確率が著しく低い場合、私は冷静に判断を下します。
感情に流されず、数字という客観的な指標に基づいて判断する。
これが、銀行員時代に培ったリスク管理の原則です。

マーケットを見る目:オッズの裏にある“集団心理”

銀行では、金融市場の動向を常に注視していました。
株価や為替レートの変動は、経済指標だけでなく、投資家の“集団心理”によっても大きく左右されます。
競馬におけるオッズもまた、一種のマーケットと言えるでしょう。

オッズは、その馬券がどれだけ買われているかを示す指標です。
つまり、多くの人が「この馬が勝つだろう」と期待しているほど、オッズは低くなります。
しかし、このオッズが常に馬の実力や勝率を正確に反映しているわけではありません。
そこには、メディアの情報、ファンの期待、あるいは一時的な熱狂といった“集団心理”が複雑に絡み合っています。

私は、オッズの表面的な数字だけでなく、その裏に潜む人々の心理を読み解こうとします。
なぜこの馬が過剰に人気を集めているのか?
あるいは、なぜ実力馬が不当に低い評価を受けているのか?
マーケットの歪みを見つけ出し、そこに勝機を見出す。
これは、金融市場で培った洞察力が活きる部分です。

「オッズは、単なる数字の羅列ではない。それは、無数の人々の期待と不安が交錯する、生きた市場そのものだ。」

これは、私が常に心に留めている言葉です。

騎手と馬の関係を読む:銀行業務に通じる人間観察

銀行員時代、融資先の経営者や担当者と深く関わる中で、人間観察の重要性を痛感しました。
言葉や数字だけでは見えてこない、相手の真意や能力を見抜く力。
これは、競馬において騎手と馬の関係性を読み解く上でも非常に役立っています。

騎手は、単に馬を操るだけでなく、馬の能力を最大限に引き出すパートナーです。
両者の信頼関係、騎手のその日のコンディション、得意な戦法、さらにはプレッシャーのかかる大舞台での精神状態。
これらは全て、レースの結果に影響を与える重要な要素です。

例えば、以下のような点を注視しています。

  • 騎乗経験: その騎手が、その馬に継続して騎乗しているか。乗り替わりの場合、その経緯は何か。
  • コース適性: その騎手が、その競馬場のコースを得意としているか。
  • 戦法: その騎手の得意な戦法(逃げ、先行、差し、追い込み)と、その馬の脚質が合っているか。
  • 勝負気配: 大一番での勝負強さ、プレッシャーへの耐性。

これらは、銀行業務で顧客の事業計画や財務状況を精査する際、経営者の資質や組織の実行力を見極めるプロセスと似ています。
データだけでは測れない「人」の要素をどれだけ深く読み込めるかが、的確な判断に繋がるのです。

感情がロジックに割り込む瞬間

徹底したデータ分析と論理的な思考を重視する私ですが、それでも感情が全く介入しないわけではありません。
特に競馬というドラマチックな世界においては、時にロジックだけでは説明できない「何か」を感じ取ることがあります。

G1レースの高揚と“直感”の目覚め

G1レースの独特な雰囲気は、何度経験しても特別なものです。
大観衆の熱気、一流馬たちの研ぎ澄まされたオーラ、そしてこれから始まる大一番への期待感。
そうした空間に身を置くと、普段は抑えているはずの“直感”が顔を出すことがあります。

それは、論理的な分析の先にある、ふとした閃きのようなものかもしれません。
パドックで見た馬の覇気、返し馬での軽快なフットワーク、あるいは騎手の自信に満ちた表情。
言葉ではうまく説明できないけれど、「この馬かもしれない」と感じる瞬間。

もちろん、直感だけで馬券を買うことはありません。
しかし、データ分析で複数の候補が挙がった際、最後の決め手として直感を信じることが稀にあります。
それは、銀行員時代には決してなかった感覚です。
数字の世界では、直感はノイズでしかありませんでしたから。

データだけでは割り切れない「馬の表情」

私はよくパドックで馬の「表情」を見ると言いますが、これは比喩的な表現だけではありません。
もちろん、馬が人間のように感情を表情に出すわけではありませんが、その佇まいや雰囲気から感じ取れるものは確かにあります。

例えば、

  • 落ち着き: レース前に過度に興奮せず、どっしりと構えているか。
  • 集中力: 周囲の喧騒に惑わされず、レースに意識が向いているように見えるか。
  • 覇気: 目に力があり、闘志を感じさせるか。

これらは非常に主観的な判断基準であり、データで裏付けられるものではありません。
しかし、長年馬を見続けていると、その日のコンディションの良し悪しが、なんとなく伝わってくるのです。
特に、重要なレースで人気薄の馬が素晴らしい気配を見せている時など、データだけでは拾いきれない魅力に心が動かされることがあります。

これは、銀行員時代に企業の将来性を見極める際、財務諸表の数字だけでは分からない経営者の情熱やビジョンを感じ取ろうとしていた経験と、どこか通じるものがあるのかもしれません。

勝ち負けを超える「ドラマ」に引かれて

競馬の魅力は、単なる勝ち負けだけではありません。
そこには、人馬が織りなす数々のドラマがあります。

苦労を乗り越えて大舞台にたどり着いた馬。
怪我から復活を遂げた騎手。
長年G1を勝てずにいた調教師の悲願。

そうした背景にある物語を知ると、どうしても感情移入してしまいます。
もちろん、予想においては冷静さを保つよう努めますが、心のどこかで「この馬に勝ってほしい」と願ってしまう自分がいるのも事実です。

あるベテラン騎手が、長年の苦労の末に初めてダービージョッキーの栄冠を手にしたレースがありました。
その馬は、私のデータ分析では決して本命ではありませんでした。
しかし、パドックでの人馬の一体感、そして何よりもその騎手のダービーに懸ける執念のようなものがひしひしと伝わってきて、思わず少額ですが応援馬券を買ってしまったのです。
結果、その馬は見事に勝利。
馬券の的中以上に、そのドラマに感動し、胸が熱くなったのを覚えています。

こうした経験は、ロジック一辺倒だった私に、競馬の奥深さを教えてくれました。

ロジックと感情の交差点での決断

競馬予想は、突き詰めれば「決断」の連続です。
膨大な情報の中から何を選び、何を捨てるのか。
そして最後に、どの馬に自分の資金を投じるのか。
その決断は、ロジックと感情が複雑に絡み合う「交差点」で行われます。

「最後に賭けた理由」は何だったのか?

レースが終わり、結果が出た後、私は必ず自分の予想と決断を振り返ります。
特に、「なぜあの馬に賭けたのか?」という問いは、自分自身に対して最も厳しく問いかける部分です。

その理由は、

  • データ分析に基づく論理的な結論だったのか?
  • オッズの歪みを見抜いた戦略的な判断だったのか?
  • 騎手や馬の状態に対する洞察が決め手だったのか?
  • あるいは、説明のつかない直感や感情的な共感が影響したのか?

理想は、論理的な根拠と、それを裏付けるポジティブな感情が一致した時です。
しかし、時にはどちらかが強く作用することもあります。
重要なのは、そのバランスを自覚し、なぜその決断に至ったのかを明確に言語化できるようにしておくことです。

決断プロセスの可視化

私の頭の中では、以下のような思考プロセスが展開されることがあります。

  1. データスクリーニング: 過去走、血統、馬場適性などから候補馬を絞り込む。
  2. オッズ分析: 各馬のオッズと想定勝率を比較し、妙味のある馬を探す。
  3. 定性情報収集: パドック、返し馬、調教コメント、騎手心理などを加味する。
  4. リスク評価: 投資額と期待リターンを考慮し、最終的な馬券種と金額を決定する。
  5. 感情的チェック: その決断に納得感があるか、後悔しないか自問する。

このプロセスを経ることで、たとえ結果が伴わなくても、ある程度の納得感を得ることができます。

賭けの背景にある“物語”の重み

私が競馬に惹かれる理由の一つに、それぞれの馬や騎手、関係者が持つ“物語”の存在があります。
その物語の重みが、時に私の決断に影響を与えることがあります。

例えば、ある馬が過去に大きな怪我を乗り越え、奇跡的な復活を遂げてG1レースに出走してきたとします。
データ上は厳しい評価でも、その不屈の精神や関係者の努力を知ると、応援したくなる気持ちが芽生えます。
これは、単なる感傷ではありません。
そうした逆境を乗り越えてきた馬は、時に常識では考えられない力を発揮することがあるからです。

もちろん、物語性だけで馬券を買うのは危険です。
しかし、論理的な分析と並行して、そうした背景にある物語を理解することは、競馬をより深く楽しむ上で、そして時には意外な穴馬を見つけ出す上で、重要な要素になると考えています。

後悔しない選択を導くための自己対話

最終的にどの馬に賭けるかという決断は、孤独な作業です。
誰に相談することもできず、自分自身と向き合い、最善と信じる道を選ぶしかありません。
その際、私が最も大切にしているのは、「後悔しない選択をする」ということです。

そのためには、徹底的な自己対話が不可欠です。

  • 本当にこの選択で良いのか?
  • 見落としている情報はないか?
  • 感情に流されていないか?
  • もし外れたとしても、納得できる理由があるか?

これらの問いを自分自身に投げかけ、一つ一つクリアにしていく。
そのプロセスを経て下した決断であれば、たとえ結果が伴わなくても、次に繋がる学びを得られると信じています。

読者へのメッセージ:数字で語る、感情の物語

ここまで、元銀行員である私が、どのように競馬と向き合い、ロジックと感情の狭間で決断を下しているかをお話ししてきました。
最後に、この記事を読んでくださっている皆様へ、私からのメッセージをお伝えしたいと思います。

冷静に、しかし熱く賭けるということ

競馬はギャンブルである以上、冷静な判断が求められます。
感情に任せて大金を投じたり、根拠のない楽観論にすがったりするのは避けるべきです。
しかし、同時に競馬は情熱を燃やせる素晴らしいエンターテイメントでもあります。

大切なのは、冷静な分析力と、競馬を愛する熱い心のバランスを取ること。
データやロジックを駆使して勝利の確率を高めつつも、レースのドラマや馬の美しさに感動する心を忘れないでいたいものです。
「冷静に、しかし熱く賭ける」。
これが、私が理想とする競馬との向き合い方です。

「信じられるロジック」を持つ強さ

競馬予想には様々なアプローチがあり、絶対的な正解はありません。
血統を重視する人、調教を重視する人、展開を重視する人。
それぞれが独自の理論と経験に基づいて予想を組み立てています。

重要なのは、自分自身が「信じられるロジック」を持つことです。
他人の意見に流されるのではなく、自分なりの分析軸や判断基準を確立する。
それが、長期的に競馬と付き合っていく上での大きな強みになります。

世の中には多種多様な競馬情報が存在し、中には独自の視点や情報網を駆使するサイトも見られます。 例えば、競馬新聞などではあまり表に出ない情報を基に予想を提供する暴露王のような競馬情報サイトも、万馬券を狙う人々にとっては一つの選択肢となるかもしれません。
こうした情報を参考にしつつも、最終的にはご自身が納得できる判断軸を持つことが肝要です。

参考: 当たると評判の暴露王の競馬情報ってどうなの?

私の場合は、銀行員時代に培ったデータ分析とリスク管理の考え方が、そのロジックの根幹を成しています。
皆様も、ご自身の経験や得意分野を活かして、自分だけの予想スタイルを築いていってください。

自分だけの“交差点”を見つけるために

競馬の魅力は、その奥深さと多様性にあります。
ロジックと感情、データと直感、科学と芸術。
様々な要素が複雑に絡み合い、私たちを魅了します。

この記事で私が「ロジックと感情の交差点」と表現したように、競馬予想とは、自分の中に存在する異なる価値観や思考法を統合し、最適解を見つけ出すプロセスなのかもしれません。

ぜひ、皆様もご自身の競馬との向き合い方の中で、
「自分だけの“交差点”」
を見つけてみてください。
そこにはきっと、新たな発見と興奮が待っているはずです。

まとめ

銀行員から競馬ライターへ。
私のキャリアは大きく変わりましたが、根底にある「数字と向き合い、分析し、判断する」というプロセスは変わりません。
しかし、競馬という舞台は、そこに「感情」という新たな彩りを加えてくれました。

ロジックだけでは割り切れない馬の魅力。
データだけでは予測できないレースのドラマ。
そして、それら全てが凝縮された一瞬の決断。

競馬は、単なるギャンブルではなく、数字で語られる感情の物語なのだと、私は考えています。
冷静な分析力と、熱い情熱。
その両輪があってこそ、「勝負」の真の面白さを味わうことができるのではないでしょうか。

この記事が、皆様の競馬ライフの一助となれば幸いです。
そして、いつかどこかの競馬場で、皆様と熱い議論を交わせる日が来ることを楽しみにしています。

Q&Aセクション

Q1. 銀行員時代の経験で、最も競馬予想に役立っていることは何ですか?

A1. やはり「リスク管理」の考え方です。
銀行では常に最悪の事態を想定し、それに対する備えを徹底します。
競馬でも同様に、ただ当てるだけでなく、外れた場合のリスクをどこまで許容できるか、資金管理をどうするかという視点は常に持っています。
また、膨大なデータを整理・分析するスキルも役立っています。

Q2. 感情に流されそうになった時、どのように冷静さを取り戻しますか?

A2. 一度、物理的にその情報から離れるようにしています。
例えば、どうしても気になる馬がいるけれど、データ的な裏付けが薄い場合、一度パソコンを閉じて散歩に出たり、全く別のことを考えたりします。
そして時間を置いてから再度検討すると、客観的な視点を取り戻せることが多いです。
また、事前に決めた「馬券購入のルール」に立ち返ることも有効です。

Q3. 競馬初心者に向けて、ロジックと感情のバランスについてアドバイスはありますか?

A3. まずは、少額で楽しむことから始めるのが良いと思います。
そして、なぜその馬を選んだのか、自分なりの理由を言語化する習慣をつけることをお勧めします。
最初は「好きな名前だから」「毛色が好きだから」といった感情的な理由でも構いません。
そこから少しずつ、過去の成績や騎手といったロジカルな要素にも目を向けていくと、自然とバランスが取れてくるのではないでしょうか。
楽しむことが一番大切です。